父の日が近づくと、少しだけ心がザワつく
「ありがとう」がうまく言えない
店頭に並ぶ父の日ギフトや、SNSの「パパ大好き」投稿。
それを見て、なぜか心がザワザワする。
そんなことありませんか?
感謝はあるのに、言葉にできない。
何かしたい気持ちはあるのに、動けない。
そんな自分に、ちょっとだけ罪悪感を覚えてしまうことも。
親とは仲良くしないといけない?
親子って、もっと仲良くて当たり前?
父の日には感謝を伝えるのが“普通”?
そんな空気を、知らないうちに感じてしまっているのかもしれません。
もちろん、そういう関係も素敵です。
でも、どんな親子にもそれぞれの形があっていいはずなのに、
自分と父の関係が“理想像”と違うことで、少し肩身の狭い気持ちになってしまうこともあるのです。
父親と二人きりになると話せない理由
子どもの頃は、もっと話せたのに
昔は一緒に遊んだり、テレビを見たり、なんでもないことで笑い合えていたのに、大人になってからは、父親と二人きりになると気まずさを感じるようになった方も多いのではないでしょうか。
沈黙が気になって、何を話せばいいのかわからない。
無理に話題を探しても、どこか噛み合わない感じがして、気疲れしてしまうこともあります。
「どうして、こんなに距離ができてしまったんだろう」と思うと、少し寂しくなるかもしれません。
ウェスターマーク効果という心理学的な視点
父親との距離を感じるようになるのには、私たちの心や体の仕組みによる、ある意味で自然な理由もあるとされています。
たとえば「ウェスターマーク効果」という心理学の考え方があります。
これは、幼い頃に近い距離で育った相手に対して、大人になると本能的に“性的な対象として見ないようにする”という、人間が近親相姦を避けるための心理的メカニズムです。
もちろん、いやらしい意味ではまったくありません。
あくまで自然な防衛反応として、心が無意識に距離を取ろうとするのです。
ですから、「父親となんとなく距離を感じてしまう」「気まずくなってしまう」というのも、ごく自然な心の動きなのです。
「嫌いなのかも」と思ってしまうとき
距離を感じると、「もしかして自分は父のことが嫌いなのかも」と不安になることもあるかもしれません。
でも、実際は「どう接していいかわからない」だけかもしれません。
わざと冷たくしているわけでも、関係を壊したいと思っているわけでもない。
ただ、気持ちをどう表現すればいいのかが、わからないだけなのです。
そんな自分を「冷たい娘だ」なんて責めなくても大丈夫です。
もともと苦手だったケース
厳しかった、怖かった、干渉された
すべての親子関係が「ちょっと気まずい」程度のものとは限りません。
中には、父親の存在そのものがしんどかった、という人もいます。
子供の頃、怒鳴られた、抑えつけられた、いつも否定された。
そんな体験が積み重なって、大人になっても心の奥で引っかかっていることもあります。
また、一見優しいけれど、必要以上に干渉された、支配的だった、というケースも。
周囲からは「いいお父さん」と見られていても、当人にとっては違和感や窮屈さが残っていることもあるのです。
“尊敬できない父”を持つということ
世間では「父親=尊敬の対象」とされがちですが、現実にはそう思えないことだってあります。
頼りなかったり、不機嫌で家族に当たったり、母親に対する態度に疑問を感じたり。
そういう父親像を見て育つと、「本当にこれが正しい親の姿なの?」と、心のどこかで引っかかるのは自然なことです。
無理に「父を許す」「受け入れる」必要はありません。
尊敬できないと思う自分の感覚も、ちゃんと大事にしていいのです。
自分を責めないために知っておきたいこと
たとえ他の家族や親戚、社会が「親に感謝するのが当たり前」と言っていても、それが難しいと感じる人もいます。
その気持ちは、あなただけのものではありません。
むしろ、過去の自分を守るために生まれた、自然な心の反応です。
「父の日」というイベントが近づくと、そうした記憶や思いがよみがえって、苦しくなることもあるかもしれません。
そんなときは、「私はちゃんと、自分の気持ちをわかってあげられている」と思ってみてください。
それだけでも、十分に意味のあることです。
「父親みたいな人を好きになる」って本当?
心の奥にある“恋愛と父親”のつながり
「女の子は父親に似た人を好きになる」――そんな言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
心理学の世界では、幼少期に親との関係がその後の恋愛傾向に影響を与えることがあると言われています。
これは「刷り込み(インプリンティング)」のような現象とも言われていて、特に親子の関係性が深いほど、その影響は表れやすいと考えられています。
でも、それはもちろん“絶対にそうなる”というわけではありません。
あくまで「そういう傾向が見られることもある」という話。
たとえば、安心感をくれる相手に惹かれる場合、それがたまたま父親と似た性質だった、ということもあるでしょうし、逆に父親と真逆の人を選ぶことで、自分を守ろうとすることもあります。
気づいたときにできること
もし、過去の恋愛を振り返って「父に似ているかも」と感じたとしても、それを否定したり、恥ずかしく思う必要はありません。
それはあなたが無意識に選んできた“安心できる要素”だったのかもしれないし、逆に「こうはなりたくない」という反発からの選択だった可能性もあります。
大切なのは、「自分はどんな関係を心地よいと感じるのか」を少しずつ理解していくこと。
過去にとらわれる必要はありませんし、親との関係がそのまま恋愛の結果を決めるわけでもありません。
恋愛は、“自分自身との関係”でもあります。
これまでどんな父娘関係であっても、「これからの自分はどうありたいか」を考えることが、心の整理につながっていきます。
“ちょうどいい距離感”を探しているあなたへ
無理して近づかなくてもいい
父親との関係に正解はありません。
「もっと仲良くしなきゃ」「何かしてあげなきゃ」と思って、無理に歩み寄ろうとする必要もありません。
たとえ何も連絡しなかったとしても、何もプレゼントしなかったとしても、あなたが冷たいわけではありません。
距離を取ることで保たれているバランスも、立派な関係のひとつです。
感謝は言葉じゃなくても伝わる
もし、感謝の気持ちが心のどこかにあるなら、それは必ずどこかに表れます。
照れくさくて言葉にできなくても、相手のことを気にかけているその気持ちは、ふとした行動や態度ににじみ出るものです。
だから、自分の中にある思いを無理に「正しい形」に当てはめなくても大丈夫です。
あなたなりのペースで、あなたなりの方法で関係を育んでいければいいのです。
小さな一歩は、心が動いたときに
「父の日だから」と無理に動くのではなく、あなたの心が少しでも「何かしてみようかな」と感じたときが、小さな一歩を踏み出すタイミングです。
たとえば、短いLINEを送ってみる、実家に電話してみる、それだけでも十分です。
逆に、どうしても動けないなら、それもまた、今のあなたにとって自然なこと。
心が動かないことを無理に変える必要はありません。
どんな距離感であれ、それは“今のあなたにとってちょうどいい距離”なのだと思います。
父親との関係は、時に気まずくて、複雑で、言葉にしにくいもの。
でも、その揺らぎもまた、人とのつながりの自然なかたちなのかもしれません。
あなたが、あなたらしく、父との関係を見つめられることを、心から願っています。