「なんでできないの?」と感じるあなたへ
「どうしてこんな簡単なことができないの?」「何度も教えたのに、また同じミス…」そんなふうに、ついイライラしてしまう後輩はいませんか?
特に、自分が忙しくて余裕がないときほど、そんな後輩の行動が目についてしまいます。
やるべき仕事が終わっていないのにランチに出かける、確認もせずに進めてミスを繰り返す。
あなたの中で「もう、限界…」という思いが少しずつ積もっているのかもしれません。
でも、そんなふうに思ってしまう自分を責める必要はありません。
イライラするのは、あなたがちゃんと仕事をしている証拠。
責任感があって、まわりのことをちゃんと見ているからこそ、気になるし、心がざわつくのです。
まずはそんな自分の気持ちに、「そっか、つらかったんだね」とやさしく声をかけてあげてください。
この先では、そんなあなたの心が少しでも軽くなるように、7つの視点を紹介していきます。
「仕方ない」とあきらめるのではなく、「どうしたら、自分のためにもなる関わり方ができるか」を一緒に探っていけたらと思います。
視点①:誰しも通る道
後輩の「できなさ」にイライラしてしまうとき、少しだけ視点を変えて、自分が新人だったころのことを思い出してみてほしいのです。
あのころ、自分はどんなふうに仕事を覚えていったでしょうか?
先輩たちに何度も同じことを聞いてしまったり、要領が悪くて迷惑をかけてしまったり…。
ミスをしたあとに、落ち込んだり泣きたくなった夜もあったかもしれません。
でも、その経験があったからこそ、今のあなたがあります。
仕事のやり方を少しずつ覚えて、自信を持って判断できるようになり、後輩を指導する立場になったんですよね。
中には、「私は最初からわりとできていたほうだし」と感じる人もいるかもしれません。
けれど、それはたまたまその仕事が得意だった、あるいは環境に恵まれていただけという可能性もあります。
そして、そんな人にも「これは苦手」「最初は苦労した」というものは、きっとあるはずです。
人は、誰でも最初は「できない人」です。
「できない」が「できる」に変わるまでには、時間と経験、そして誰かの支えが必要なのです。
もちろん、だからといって何でも許そう、という話ではありません。
自分のときとは違って、明らかに姿勢がよくない後輩もいます。
でも、まず「自分にもできなかった時期があった」という事実を思い出すことで、怒りの温度を少しだけ下げられるかもしれません。
あなたが今、後輩に感じているもどかしさは、もしかしたら過去の自分を見ているような感覚に近いのかもしれません。
だからこそ、イライラの奥に「もっとこうなってほしい」という期待や願いがあるのではないでしょうか。
視点②:責任感の裏返し
後輩に対してイライラしてしまう。
そんな自分にふと、「器が小さいのかな」「こんなに怒るなんて、性格が悪いのかも」なんて、落ち込んでしまうことはありませんか?
でも、そんなふうに感じてしまうのは、きっとあなたがまじめで、責任感が強い人だからです。
自分がしっかりやろうとしているからこそ、「なぜこの子は手を抜いているように見えるんだろう」と思ったり、「なぜミスの重さを自覚していないんだろう」ともやもやしたりするのです。
ときには、後輩の仕事のミスが自分の仕事に影響したり、上司からの評価に関わったりすることもあるでしょう。
そんなとき、ただの「他人事」では済まされず、プレッシャーや不安とともにイライラが膨らんでしまうのは、自然なことです。
でも、その「イライラ」は決して悪者ではありません。
それは「ちゃんとやりたい」「良い仕事をしたい」というあなたの思いの現れなのです。
だからこそ、自分を責めすぎず、「ああ、私はそれだけ真剣に向き合っていたんだな」と、その感情の根っこにあるものを見つめてみてください。
気づかないうちに頑張りすぎていた心に、少しやさしくなれるはずです。
視点③:「できない理由」があるかもしれない
後輩の仕事ぶりを見て、「やる気がないのかな」「なんでこんな簡単なこともわからないんだろう」と思ってしまうこと、ありますよね。
でも、もしかしたらその「できなさ」には、見えにくい理由が隠れているのかもしれません。
たとえば、本人も気づいていないような発達障害の特性がある場合、どうしても作業の手順が覚えづらかったり、注意が散りやすかったりすることがあります。
あるいは、過去の職場でのトラウマや、現在抱えている精神的な不調、持病などが集中力や体力に影響していることも考えられます。
もちろん、そうした事情があれば通常は入社時に何らかの申告があることが多いですが、本人すら自覚していないケースもあります。
「ただの怠け」や「努力不足」に見えることも、本人にとっては一生懸命なのにうまくいかない、という苦しい状況かもしれないのです。
だからといって、すべてを理解し、受け入れなければいけない…というわけではありません。
ただ、「もしかしたらそういう背景があるのかも」と、ほんの少しだけ思いを巡らせてみることで、自分の気持ちにも余白が生まれることがあります。
人は見えていることだけがすべてではない――
その前提を持って関わることは、相手のためでもあり、自分自身の心を守ることにもつながるのです。
視点④:伝え方、強くなっていない?
後輩に何度も同じことを注意していると、「もう何回言えばわかるの?」「自分で考えて動いてよ」と、どうしても口調がきつくなってしまうことがありますよね。
そんなとき、自分では「普通に言ってるだけ」「怒鳴ってないから大丈夫」と思っていても、相手には思った以上に強く響いていることがあります。
特に、社会人経験の浅い後輩にとっては、先輩の一言ひとことがプレッシャーになりがち。
たとえ内容が正しくても、伝え方次第で相手を萎縮させてしまい、逆に成長の妨げになることもあるんです。
また、職場では「注意」と「ハラスメント」の境界線がとてもあいまいです。
どんなに正しいことを言っていたとしても、言い方や状況次第ではハラスメントと受け取られてしまう可能性もあります。
これは、「だから気を遣え」「我慢しろ」という話ではなくて――
大切なのは、「どう伝えれば相手に届くか」という視点を持つこと。
たとえば、「これができていないよ」と責めるのではなく、「こういうときは、こうした方がいいよ」と具体的な提案をする。
「いつもミスが多いね」ではなく、「こういうミスが多いみたいだけど、どうしたら防げそうかな?」と、一緒に考える姿勢を見せる。
伝え方を工夫することで、自分のストレスも減り、相手にも前向きな変化を促すことができるかもしれません。
言葉には、想像以上の力があります。
だからこそ、その力を「壊すため」ではなく、「育てるため」に使えたら素敵ですよね。
視点⑤:無視や放置もハラスメント
何度教えてもできない後輩に、どうしてもイライラが積もっていくと、「もう関わりたくない」「何も言わないほうが楽」と、つい距離を置きたくなってしまうこともありますよね。
でも、その「放っておく」という行動も、実は職場におけるハラスメントのひとつとされる場合があります。
いわゆる「教育的配慮がない」「業務上の必要な指導がなされていない」という扱いになってしまうのです。
もちろん、距離を取ることがすべて悪いわけではありません。
自分の心を守るために、一定の距離を取る判断も大切です。
ただ、それが「もう知らない」「教えてもムダ」という態度になってしまうと、後輩にとっては「自分は見放された」「仕事を任せてもらえない」と感じさせてしまうかもしれません。
教えることは、決して「甘やかす」ことではなく、相手を信じて任せることでもあります。
もちろん簡単なことではありませんし、「また同じミスをされたらどうしよう」と思えば、つい自分でやった方が早い…と感じることもあるでしょう。
でも、ほんの少しだけ「任せてみる」「確認しながら一緒にやってみる」――その積み重ねが、後輩の自信や成長につながっていくのです。
そして、それは最終的に、あなた自身の負担やストレスを減らすことにもなるかもしれません。
関わることは、エネルギーがいること。
だからこそ、関わろうとしているあなたは、もう十分すぎるほど頑張っているのです。
視点⑥:ひとりで抱えない
どんなに我慢強い人でも、限界を感じる瞬間はあります。
後輩の言動に毎日振り回され、注意しても響かず、改善も見られない。
そんな状況が続けば、「もう無理かもしれない」と感じるのは当然のことです。
だからこそ、ひとりで抱え込まず、信頼できる上司や人事担当者に相談するという選択肢を持っていていいのです。
「私が悪く思われるかも」
「教える力がないと思われそう」
そんなふうに不安になる気持ちもわかります。
でも、相談は「逃げ」ではなく、「環境を整えるための行動」です。
実際、後輩との相性や育成にかけられるリソースの問題で、教育係を外れることが提案される場合もあります。
それは「失敗」ではなく、自分を守るための一つの手段。
人にはそれぞれ向き不向きがあり、それを見極めるのも大切な力です。
また、上司やチームで共有することで、客観的な視点からのアドバイスや、改善の糸口が見えることもあります。
「どうしたら良いか」を一緒に考えてもらうことで、あなたの心にも少し余裕が戻ってくるかもしれません。
大切なのは、自分がつぶれてしまう前に声をあげること。
誰かに頼ることは、弱さではなく、自分と仕事に責任を持つための勇気です。
視点⑦:イライラはあなたのやさしさ
ここまで読んでくださったあなたは、きっと「どうにかしたい」「このままイライラしていたくない」と思っているのだと思います。
その気持ちの根っこには、後輩へのあたたかさや、よりよい関係を築きたいという願いが、きっとあるはずです。
イライラは、ときに相手への期待や信頼の裏返しでもあります。
「できるようになってほしい」「ちゃんと成長してほしい」と思うからこそ、もどかしくなるし、感情が動くのです。
怒りたくて怒っているわけじゃない。
ただ、「どう伝えればいいのかわからない」「どこまで関わっていいのか迷っている」――そんな優しさゆえの戸惑いも、あなたの中にあったのではないでしょうか。
後輩もまた、不安や焦り、そしてあなたの言葉に対する恐れを抱えているかもしれません。
でも、あなたが少しだけ関わり方を変えたり、自分の気持ちに向き合ったりすることで、その関係は少しずつ変わっていく可能性があります。
完璧じゃなくていいんです。
うまくできない日があっても、言いすぎて後悔する日があっても、それでも「どうにかしたい」と思う気持ちがあるなら、それはもう、十分にやさしさです。
あなたのその思いが、いつかちゃんと届きますように。
そして何より、自分自身の心も、大切にできますように。
まとめ
後輩にイライラしてしまうのは、あなたが真剣に向き合っている証。
新人時代の記憶、相手の背景、伝え方の工夫、自分の限界――
さまざまな視点から見つめなおすことで、少しずつ心の余白が生まれてくるかもしれません。
完璧にできなくても大丈夫。
イライラしたっていいし、疲れたら距離をとってもいい。
それでも「どう関わればいいか」を考えようとする、その姿勢そのものが、もう立派なやさしさです。
今日の自分を、少しだけねぎらってあげてくださいね。
きっとまた、前よりやわらかい気持ちで人と向き合えるはずです。